『死神』(米津玄師)の音域

★m2E[イェ]m2D#[エー][エー]×2  hiA裏[プリーズ] E[プリーズ] ヘルプミー【サビ】

　まず、『死神』（しにがみ）についてです。この楽曲は、2021年に男性シンガーソングライターの米津玄師さんによりリリースされたシングル作品『Pale Blue』の3曲目に収められております。いわゆるカップリング曲という位置づけになりますが、MVも制作されており、ショートバージョンでありながら、既に900万回近くの再生回数を記録しております。

　『死神』はミディアムテンポのロックナンバーです。歌メロはAメロサビといった形が母体となっております。作詞作曲編曲は米津玄師さん、共編曲は坂東祐大さんによりなされております。
　後述しますが、同曲は落語の演目『死神』がモチーフとなっております。そうしたこともあり、ボーカルの発声などはどことなく、気怠さやサイケなニュアンスを持っております。また、ロウソクの火を消す息、死神を思わせるようなボーカルのエフェクト等が用いられております。短い曲でありながら、要所要所にこだわりが感じられます。また、MVも落語の寄席が舞台となって撮影されております。

　落語の演目である『死神』は、貧しく甲斐性のない男性が【人の生死を推理し、時に、呪文で病を治すことができる】という力を死神から授かります。しかし、男性は「延命させることが出来たら多額の報酬を出す」という依頼で金に目がくらみ、本来死ぬ運命にあった患者をムリヤリ治癒させてしまいます。これに激怒した死神が、本来死ぬはずだった病者と男性の寿命を入れ替え、男性の命は風前の灯火となります。男性が、自らの消えそうな命の火を新しいロウソクに移し替えようとして、失敗するところで演目が終わります。

　私自身の解釈ですが、米津さんの『死神』は、派生パターンの「ロウソクの火が消えて死んだ男性が自ら死神となり、自分と似た境遇である別の男性に同じ儲け話を授けにいく」というパターンを描いているように感じました。2番の歌詞で【どうせ俺らの仲間入り】という部分から、「死神がループしていく」をイメージしました。


　最後に『死神』の音域についてですが、【地声最低音】lowG(G2)～【地声最高音】midG(G4) で歌メロディーが構成されております。一般的な男性の音域よりも広いレンジです。以下、見ていきます。

　まず、地声最低音lowGについてはAメロで頻出します。ここはmid1Aとのコンボになっており、特に低い場面になります。
　私なりの経験ですが、このlowGやmid1A辺りは、エッジボイスを使いこなせると届きやすくなります（個人差はあります）。エッジボイスは【あ”あ”あ”あ”あ”】のような少しガラガラしたような発声です。米津さんは低音のみならず、中音域辺りでもエッジをかけており、それにより気怠さやサイケデリック感が演出されているように感じます。

　一方、地声最高音mid2Gについては、各サビで1回ずつ登場します。回数としてはそこまで多くありません。この辺りは一般的な男性の音域の範囲内ですが、歌い慣れていない人はスムーズな発声が損なわれやすいです。慣れない内は少し擦れたりしてもよいのではないかと私は考えております。
　『死神』は、目安として地声でmid2E、裏声でhiA辺りがしっかり歌いこなせると安定してきます。米津さんの抑揚が独特ですが、高音域だけで判断すると比較的アプローチしやすいです。

　『死神』はlow音階など低音部分の登場回数が非常に多く、キー下げなどは向きません。キー調整を行うとしたら、キー上げの方が中心になるのではないかと思います。もし原曲キーorキー上げでの歌唱が難しい場合は、別の曲と並行して練習するとよいと思います。音域自体が広めですので、その点で歌い慣れていない人には若干手を付けにくいです。

　『死神』は高音域自体はそこまで高くないですが、反面、低音が多く、また全体としてエッジがかった発声などが独特です。カラオケ等である程度歌い慣れた人は、エッジボイスの練習曲として、この『死神』を練習曲にしてみても良いかもしれんせん。私自身は、m1D以下の低音域が多く登場する楽曲では、エッジボイスを用いることが多いです。
　『死神』は歌詞・アレンジなどもよく、歌唱表現など含め参考になる部分も多いです。興味を持たれた方はチャレンジしてみてください。

　※米津さんの他の作品の音域についてはこちらも参考下さい⇒米津玄師の楽曲音域一覧(まとめ)